ほろ酔いで帰ってきた杉田さんは、部屋に入ってくるやいなや押し入れを開き、いそいそとギターを引っ張り出して音の調整をし出した。今から部屋でギターでも弾き始めるのか、と思うとそうではなく、突然に「行く?」と私に聞いた。
行くって、どこに?
ベンチ。
ギター弾くの?
うん。
変なひと。
寝巻きの上に杉田さんのカーディガンを羽織って外に出る。

真っ直ぐにそのベンチに向かって、ケースの中からギターを引っ張り出し、いつもの場所に座って、少しの間をあけてから杉田さんはギターを弾いた。
私はその隣で、風にそよいでザワザワとゆれる葉と、その葉が地面に陰となって映っている様子をぼうっと眺めていた。

上を向いて歩こうを歌っている。いつもは控えめな声で歌い、抑えたような音で弾くギターも、今日はそういう遠慮が無く、音のなるままにギターを弾き、空に向かって歌を歌っていた。